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スマホをオフせよ、映画を見ようVol.3

オオヤマケイタロウ
2020.06.30

「スマホをオフせよ、映画を見よう」3回目です。映画館も営業再開したので今回はなにか新作にしようかなと思っていたのですが…。アメリカの現状を見て、まさにだな、という映画があったのでそちらを。くじけず読んでみてください。

インスタが調子悪いの、と妻が朝から騒いでいた。


どれどれと見てみると、確かに一部のアカウントの写真が黒ぬりになっていた。


#BlackoutTuesday 6月2日、学生の皆さんもSNSに黒いタイルを見たと思う。白人警官の過剰な取り締まりによってジョージ・フロイドさんが亡くなったことに端を発した呼びかけである。本来、#TheShowMustBePausedというタグも一緒に付いていて、人種差別について改めて考えよう、感情に流されないように今日は仕事を休んで一息つこう、というメッセージが込められていた。


このタグはSNSを介して一気に広まったが、結果的に本筋の“Black Lives Matter”という運動のジャマをしてしまったり、大きなうねりの中でメッセージかうまく伝わらず一部では暴動や混乱に乗じた略奪が起こってしまった。その様子のほうがニュース等では取り上げられがちだったが、人々のほとんどは平和的にデモを行い、それは今もなお続いている。

と、ここまでは、もっとわかりやすく、より詳しく書いている方々がいるので是非そちらを調べていただきたい。


 さて、そう言われて調べる人はどれくらいいるだろうか。

 日本では黒人に対する人種差別は身近ではないし、“人種差別”というワードを見ただけでその文章を敬遠する人もいるだろう。私自身、白人警官が無実の黒人を誤って射殺、みたいなニュースが流れてきて、「またか」とは思っても、Black Lives Matterや黒人に対する人種差別の歴史やはじまりについて調べてみようとは思わない。今回についても、“なんとなくの知識”と想像でSNSに黒いタイルを挙げてしまった手前、こっそり調べてみたというところだ。妻にこれはどういう意味?と聞かれたときに「わからない」では一家の長としてのイゲンが保たれないし、なんのこっちゃわかっていない彼女の道しるべにならなければならない。


 私は人種差別について語れるほどの知識はないが、数行前に書いたように“なんとなくの知識”を映画から学んだ。映画は、勉強するには気が重いが《知るべきこと》を図らずも学べるという何とも優秀なコンテンツだ。映画を見て、ああこんなことがあったのか、とか、ウソだろ信じられない!とか、その先を知るにも良いステップになるし、すでにその映画自体があなたの人生経験となっている。


 スパイク・リーが撮った『ドゥ・ザ・ライト・シング』(1989米)はわかりやすく今見るべき映画だ。ブルックリンの黒人コミュニティを舞台に、ある暑い暑い一日を描いた本作は、人種差別にとどまらず多様な社会的メッセージが盛り込まれている。ただ、そんなむずかしいことは抜きにしても十二分に楽しめるのがこの映画のニクイところだ。ファッションや音楽はかっこいいし、街なみや住人たちのキャラクターをカラフルに豊かに映し出している。愛すべきキャラクターたちが我先にと登場するが、特にリー自身が演じるムーキーの妹ジェイド(演じるはリーの実妹ジョーイ・リー!!!)は控えめに言ってもゲロマブなので見逃さないように。


ドゥライトシング』(原題: Do the right thing)は、1989年にスパイク・リーが監督・製作・脚本・主演をして公開されたアメリカ映画である。ブルックリンを舞台に人種差別と対立を扱っている。 


 この映画には、黒人以外にもイタリア人、韓国人、プエルトリカン、と、もちろん白人も出てくる。日本にこんな街がなくとも、私は物語を通じて、アメリカの、そして黒人コミュニティの雰囲気を感じることができた。そのことは黒人と白人の人種差別に対する意識と、今回のデモや、一部の暴動に至った人たちの心の動きを“なんとなく”理解する助けとなった。


 視覚から聴覚から流れ込んでくる力強いグルーヴに乗って、リーのメッセージは“なんとなく”、でも確実に届けられた。合っているかわからないけど、映画の雰囲気を借りるならファッキン・マスターピースなのでぜひご覧ください。


リーは去年、『ブラック・クランズマン』(2018米)でアカデミー脚色賞を受賞した。『ドゥ・ザ・ライト・シング』から30年、少しずつ変わり続けている何かがまた一つ形となった瞬間だった。このときの授賞式のプレゼンターはサミュエル・L・ジャクソン(アベンジャーズのフューリー長官ですね)。『ドゥ・ザ・ライト・シング』で彼が演じたラヴ・ダディはWake up!!と叫んだ。映画の中で“目覚めた”ひとり、ラジオ・ラヒームがつけていたLOVEとHATEのリングをこの日のリーもつけていた。リーはスピーチで1619年に奴隷として連れてこられた自らの祖先たちと、アメリカという国をつくりあげた全ての人々に感謝と賞賛を贈った。LOVEとHATEはいつも闘っているけど、その感情は人種に関係なく平等に存在している。彼らが求めていることもそういう事なんじゃないかな、と思った。


ジョージ・フロイドさんの事件は起こってしまったが、今も続くデモの参加者の多くは白人の若者たちだという。その中には今まで何も知らなかったという10代の女の子もいて、人種差別は私たち白人のせいだから行動しなければならないの、と言っていた。なんのこっちゃわかっていなかった妻も今回の事件についてSNSで情報を探したり、得意のNETFLIXで人種差別についてのドキュメントを少しずつ見たりしているようだ。この女の子も、妻も、そしてきっと皆さんも、想像して“Right Thing”するのだろう。急にイゲンがどうとか言っていた自分が恥ずかしくなった。


オオヤマケイタロウ

イバラキの酒屋。ベランダで育てているミニトマトの出来がイマイチでガックシ。好きなラジオはジェイウエーブ。


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