「スマホをオフせよ、映画を見よう」2回目です。前回コラムを書いていた時とは世界が変わってしまいましたが、みなさんいかがお過ごしでしょう。今回はそんなステイホームな学生さんたちに捧げる内容にギリギリなっていると思います。おうち時間に気を抜いて読んでみてください。
ところで「コロナ禍」って読める??
今回のコロナ禍を予言していた!と話題になった「コンテイジョン」(2011/米)、ぼくは見たことがなかったからTSUTAYAさんへ向かった。おうち時間にちょうど良いし、このコラムのネタにもなる。一石二鳥だ。しかし、みんな考えることは一緒なのか、すでにDVDは借りられてしまっていた。経験上、長丁場になる予感がした。
アカデミー賞® 受賞監督スティーブン・ソダーバーグ(『オーシャンズ13』『トラフィック』)が、豪華キャストで描くパニック・スリラー超大作!
【恐怖】は、ウイルスより早く感染する
通い始めて一週間、やはりというべきか、一向にDVDは返ってこなかった。それどころか日に日にアクションコーナーの旧作一本に群がる人々は増えていくではないか。ぼくの頭には覚えたばかりの「ぱんでみっく」という言葉が浮かんだ。緊急事態だ!ぼくは人ごみをかきわけ、なんとか手にした空のDVDケースを、品出しに精を出すメガネの店員に差し出した。
「これはいつ返却されるかわかりますか」
ただならぬ雰囲気を察したのか、メガネ君は20枚ほど抱えていたDVDを一度棚に置き、
「コチラへ」
とおごそかにぼくをレジスターへ誘導した。
レジスターには、誰が何を借りているのか、そしていつ返却されるのかがわかる特別なマシーンが用意されていた。お手のものとスマートにキーボードをたたくメガネ君の手が止まった。
「っつ、このパターンか」
聞こえるか聞こえないかの小声とはいえ、その冷静さとお客さまへの丁寧な言葉遣いで定評のある(であろう)メガネ君らしからぬ一言に、ぼくは息をのんだ。
「お客様、こちらの作品は定額サービスで貸し出されています」
「なるほど、それでいつ返却されますか?」
「それがわからないのです、最長で3年、返ってきません」
・・・そんなパターンがあるのか、というぼくの心の声に、メガネ君は「あるんです」と頷いた。映画の内容と(きっと)同じく、どうしようもない状況に追い込まれた。
アダム・シュレシンジャーが新型コロナウィルスで亡くなったのはちょうどこの頃だった。ニューヨークにいたそうだ。バンドマンであり、映画音楽の名手でもあった彼の音楽はまさにぼくの青春だった。みんなにもそういう人がいればいいなと思うけど、彼の音楽にあの頃のぼくは何度も救われた。特に「すべてをあなたに」(1996/米)の主題歌「That thing you do!」は映画ファン、音楽ファンのみならず、そのどちらでもなかったあの子も踊りだしちゃうほどの名曲だ。ぜひ聴いてみてほしい。
ガイは怪我したドラマーの代わりに、友人ジミーのバンドに参加した。彼がジミーの作曲した“ザット・シング・ユー・ドゥ”を速いビートで演奏すると、これが大受け。メジャー・デヴューまでとんとん拍子に話は進み、彼らは一躍人気スターとなるが……。60年代を舞台にした、ロック・バンドの青春と恋を描いたトム・ハンクスの映画初監督作品。
「すべてをあなたに」は、奇しくもアダムと同じく新型コロナウィルスに感染した名優トム・ハンクスの初監督作品である。スターを夢見る若者たちが駆け抜ける青春バンドムービーだ。
映画には音楽が不可欠だけど、このような音楽そのものがテーマの作品では、音楽はもちろんというか一番重要である。そこでトム40歳はアダム24歳に「打った瞬間それとわかるホームラン」のような曲を依頼したという。有名バンドの伝記映画や、ビートルズの曲を並べた映画がヒットするのは、その曲が単純に皆に知られた名曲だからだ。オリジナルの楽曲でそれを実現するのはとてもむずかしい。「That thing you do!」アダムは「特大ホームラン」を打った。
実はここだけの話、ぼくはこの映画も見たことがない。学生の頃どこかのクラブでこの曲を聴いて、そのレコードをかけていた人に映画の曲だよ、と教えられた気がする。当時映画を観る気にならなかったのは、純粋にこの曲が良すぎたからだと思う。
あれから15年くらいは経って、今回のコロナがなければやはり映画を観る気にはならなかっただろう。というわけでぼくは再びTSUTAYAさんへ向かった。
先日のこともあるし、また「3年返ってきません」と言われたらどうしようなんてドキドキしていたけど、今回は何事もなくレンタルできた。この映画を観よ、と宇宙全体が導いてくれているようだった。メガネ君の姿は見当たらず、一応のぞいてみると「コンテイジョン」はまだ返却されていなかった。
さて、ようやく映画を観ることができたわけだが、真っ先に浮かんだのは「もっと早く観ていればよかった!」という後悔だった。「That thing you do!」を初めて聴いたあの頃、学生だったあのときに。それぞれの登場人物が、バンドが売れていく中で自分を見つけていく過程を、コミカルにときに切なく描いた良作!なんて書いている今ではなくて。
あのときにしか感じることのできない何かが、ある種の映画にはあって、「すべてをあなたに」はそういう映画のように思えた。
若いぼくは映画を観てそのままギターを買いに行ったかもしれない。レコード屋に寄って君に出会ったかもしれない。苦手だったキャンパスや学食の風景が変わったかもしれない。そんなことがなくても、きっと気分は上々なはずだ。
遅くとも3年後、TSUTAYAさんに「コンテイジョン」は返ってくる。果たしてそのとき新型コロナウィルスはどうなっているだろうか。それよりも早いDVDの帰還と、ウィルスの収束を願うばかりだ。学生の皆さんにはおうち時間にたくさん映画を観てほしい。おうち時間は普段よりも映画に触れる機会は多いだろうから、いつもなら見ないような映画を観てみるのもいいかも知れない。いつも邦画を観ている人は洋画を、逆でも同じだけどそれくらいでもビビッとショックが走るかもしれない。ブリリアントな10代の時間、良くも悪くも(?)新しい扉を開けて、見える景色が変わっていくのも悪くないと思う。コロナの影響で、国内外のほとんどの作品が公開を延期している。映画を観るクセがついたみんなが、コロナが晴れていつもの生活に戻ったとき映画館に押しよせたりしたら最高だ。
P.S 学校は徐々に再開している所もあるみたいだけどまだまだステイホームは続きそう。この機会に映画を観てみたいけどどんな映画がいいかわからないとか、今こんな気分なんだけどなにかいい映画ない?という君たちはSNSにメッセージください。オススメをチョイスして返信します。それではまた逢う日まで。
ところで「P.S 」って意味わかる??
オオヤマケイタロウ(しみず屋)
イバラキの酒屋。最近Netflixに加入するも妻と父に回線を独占されてしまう。好きなマンガはジャンプ。