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  • インタビュー

O.C.S.D.チャリティーアート展インタビュー「白根ゆたんぽ」

神尾なつみ
2023.11.10

11月17日からバーニーズ ニューヨーク銀座本店にて行われる「O.C.S.D.チャリティアート展」
今回は参加アーティスト『白根ゆたんぽ』さんにインタビュー!
作品の見どころなどについて聞いてみました。

-白根ゆたんぽさんを初めて知る読者に向けて簡単に経歴を教えてください。

白根ゆたんぽ:桑沢デザイン研究所という専門学校を出て、そのまま就職せずにフリーのイラストレーターになりました。職種は変わらず30年程ずっとイラストレーターです。

-以前のインタビューでも少しお聞きしたのですが、学生時代はどんな学生でしたか?

白根ゆたんぽ:中学生の時は学ランで、ガリガリの坊主頭だったので似合わなくて、もう少し華やかなものを着たいなと、高校は最低でもブレザーがいいなと思っていました。中学の頃は音楽というより漫画でしたね、

今、女性イラストで人気が再熱している江口寿史さんの「ストップ!!ひばりくん!」が大好きで、その主人公が私服の高校に通っていて憧れだったんですが、丁度学区に私服の高校があってそこに行くしかない!ということで高校を決めました。

音楽で高校に行きたいというよりは、華やかな高校生活を送りたいなというところがありました。

音楽は部活とか友達とバンドを組む中で自分の好きなものと出会って行くのですが、中学生の頃はアメリカのミュージックビデオが全盛のころで僕も洋楽を聞いていました。今思い返すと何故バンドをやろうと思ったのかはわからないですけど、多分バンドをやればモテると思っていたからかな(笑)

あとは兄がフォーク少年だったのでその影響もあったかもしれません。最初はキーボード担当で、その後ベースをやっていました。高校に入ってみたら割と文系の部活が盛んな学校で服装も自由で楽しく過ごしていたんですが、結局モテるのはサッカー部とかバスケ部とかのかっこいい人達でしたね(笑)

-専門学校に通う決め手はなんでしたか?

白根ゆたんぽ:元々は漫画とは別にアニメーションも大好きで、アニメーターになりたいと考えた時に、アニメーターは大変そうだなと思いました。

漫画家は、もし連載が出来たとしても、読者アンケートとかがあって大変そうだなと思ったりしました。

そんな中で、アニメやマンガじゃなくて他に何か絵に関係のある仕事がないかなと思ったときにグラフィックデザイナーという職種があるのを知りました。

そこで、まずは高校を出て専門学校にいったらなれるんじゃないか?と思って、デザインの学校を志望しました。

専門学校ではグラフィックデザインの勉強をしていて、当時、公募展というコンペやコンクールみたいなものが流行っていたのですが、そういった企画に応募しているうちに、絵がだんだん面白くなってきて、絵を描くことで何か仕事ができないかなと考えるようになりました。

-コンペやコンクールをきっかけに、絵で食べていけそうだなと自信に繋がったのですか?

白根ゆたんぽ:当時はその公募展というのがかなり流行っていたんですが、例えば大賞をとったりすると人気作家になれたんです。賞金も100万円は確実に貰えて、今のM1とかみたいに、てっぺん取ると1ランクも2ランクも上がって人生が変わるかもという夢がある時代があったんですよ。そこを目指して美大や専門学校からも多くの人が応募してて、僕もその流れに乗って応募していました。そこで、大賞とはいかなくても入選でもできたらな〜という期待をしつつ。そうしていると大賞を取った人や、コンペ出身者の仕事をどうしても意識するようになるわけで、結果自分もそういう風になりたいなと思っていた感じです。

-コンペなどで賞をとった経験はありますか?

白根ゆたんぽ:いや、繋がってないですね(笑) 根拠のない自信はずっとあったんですけど、落ちたり、入っても準入選とかですかね。そこで一気に大きい賞をとったとかはないです。卒業後に審査員賞というのを1回いただきました。

-当時と今では作風も違いますか?

白根ゆたんぽ:そうですね。学生でしたし、当時とは大きく作風が違いますね。

-白根ゆたんぽさんの作品に登場する女の子は誰かをモデルにしているのでしょうか?

白根ゆたんぽ:特にないです。今のタッチの女の子は描いて10年以上になるのですが、、特定の人物やまして実在のモデルになる人がいる、とかもありません(笑)ファッションやメイクも流行で変わっていくのでその時々で気になった人を参考にするのでいいかなと思っています。SNSやメディアで流れてくる画像とかでヒントを得たりもします。

-白根ゆたんぽさんの作品は露出があるけどエッチになりすぎない、可愛らしい女の子が特徴的だと思うのですが、絶妙なバランスをとるために心がけているポイントを教えてください。

白根ゆたんぽ:本当にそのままで、エッチになりすぎないように気をつけているだけです(笑) 女の人が見ても可愛いく見れて楽しんでもらえるといいなと。特に男の人はいやらしいものとかエッチなものとかを描く時って力んじゃったり気合を入れてちゃったりしがちな気がするんですよね、僕も男なんで女性の体は大好きな対称なんですけど、大好きなものでも力まずに、なるべく肩の力を抜いて軽めに描けたらいいなと思っています。

-絵を描く上で注意していることや重要視していることは他にありますか?

白根ゆたんぽ:イラストレーターになってからずっと思っているのは、仕事の時はなるべく明るい絵が描けるといいなと思っています。大変な状況でも楽しい目線やあたたかい目線があるのが必要だと思っていて。絵の具は混ぜていくと簡単に暗い色になるんですよね、逆に綺麗な色は絵の具のチューブから出た色は気をつけて塗っていかないとちゃんと発色しなかったり。暗い色の絵が気を遣っていないということではないですけど、人に見せて喜んでもらえて仕事になる職業なので、音楽で言ったら耳障りがよかったり、いい音だねと言ってもらえるような、そういう部分に気をつけています。

わかってもらいにくい感覚だとは思うのですが、”明るい線”と”暗い線”というのがあって、自分の中でOKが出るのは明るい線なんです。1本1本の線のカーブや入り方とか抜き方とか、そういうのが自分にとって気持ちのよい線を明るい線と言っているんですが、明るい線が集まってくると、明るい絵になるのかなと。気持ちよければOKなんです、なんか違うなと思ったら描き直しますし。

-そこは自分の中でOKになるまで描き直したりするのですか?

白根ゆたんぽ:一発で描けるときもあれば何度か描き直してみて、できるだけ良い状態にもっていく、という場合もあります。

-色にもこだわりを持っていらっしゃるのですか?

白根ゆたんぽ:こだわりという言葉が僕は苦手で、自分にとって良い色だなとか気持ちいいとか、そういうのがいいのでどうしてもこれでなきゃ嫌だとかはないです。こだわりという言葉にはNGの存在も含まれている気がして、僕はNG含めて結果が良ければいいかな、と思うようにしています。色も自分の好きな色はもちろんあるのでその組み合わせをやったり、そうじゃないものをやったり本当に色々ですね。

-幅広い活躍をされていますが、そのようなお仕事に繋がる秘訣があれば教えてください。

白根ゆたんぽ:秘訣があれば僕が教えて欲しいですけど(笑) 多分今の時代に合った仕事がいただけるような状況に自分を置いておくといいのかなと思います。Instagramとかがあるのでその分、大分伝わりやすくなりましたよね。例えば仕事をいただく担当者さんが意識してない仕事も目に入って自分は普段こういうことを考えていますよっていうことが伝わればいいと思いますし、InstagramをはじめとしたSNSの恩恵はかなり大きいと思います。僕のHPはとても簡素なページでほとんど機能していないので、今はInstagramとX(旧Twitter)に上げている投稿を見ていただいて依頼が来ているのかなと思います。最低限、今の時代に生きてますよってのが伝わってれば仕事に繋がる可能性が増えていくのかなと思います(笑) だからそこは発表せずに黙って描いていれば誰かが見つけてくれるという意識はないので、なるべく伝わるように投稿しています。

-積極的に受けていきたい仕事はありますか?

白根ゆたんぽ:ここ数年で個展の回数が増えていまして、展示では内容や描き方も自分で決めていくのですが、その影響か、お仕事でも自分からの発案で進められる作家的な仕事が徐々に増えてきていて、やっていけるのであれば、そのスタンスを増やせるようにしたいなと思っています。

-最近のお仕事で特に印象的だったものはありますか?

白根ゆたんぽ:どのお仕事も印象的で楽しいのですが、今年だと年の頭から関わっていた歌舞伎町タワーのエヴァンゲリオンは自分の中でも大きかったです。あとはダウンタウンDX30周年企画とか、昔から知っている大きいコンテンツに関われることは嬉しいですね。

-個展やお客様と接する機会で実際にそういった声をかけてもらうこともありますか?

白根ゆたんぽ:全然あります。僕の展示のお客さんは控えめな方が多いんですがそれでもコミニュケーションをとることはあります。在廊してても若い方の中には僕が作家って気づかない人もいるので、そういう時はしれっと観察して、そのまま送り出す時もあります(笑) 女性の絵を描いているので女性のお客さんが話してくださったことは結構参考にするようにしています、「こういうところが好きだ」ってポーズや髪型とかの感想をもらうのも嬉しいですね。

-ヘアスタイルや服装はメディアからのインスピレーションが大きいですか?

白根ゆたんぽ:街を歩いていてもありますし、メディアを見るというのも含めて日常からのインスピレーションを受けます。見ていてこういうのがいいなとか、すれ違う人を参考にしたりとか、そういうのが割と多いです。

-今回のチャリティーアート展の作品について

T.L.H. 2023(ジークレー)
T.L.H. 2023(ポスター)

-チャリティーアート展の作品で、どんなところに注目してほしいですか?

白根ゆたんぽ:難しかったところでもあるのですが、バーニーズ ニューヨーク(以下:バーニーズ)が協力することを聞いた時に、チャリティーの側面というのは持っている人が持っていない人に何か与えるというか、それが応援するということなんだとも思うのですが。僕個人としては、バーニーズはかなり華やかな存在という印象があります。日常に必要なモノを買うというよりかは、日常に余裕がある人が買い物をするところなのかなというイメージでして。

一方ではニュースなどでも学生さんや若い人で大変な人の話も聞くわけで、そういうところで物質的にというかお金や余裕があるから与えているという見え方にならなければいいなと思いました。

今回のバーニーズが掲げている3つのキーワードが、何を着たら楽しいとか、どういうところに行って何をしたら楽しいとか具体的なことでなく、抽象的に感じられる作品になればいいなと思いました。そんなことをイメージしてどうしようかなと思ったところで辿り着いたのが、文字で表現しちゃえばいいやというところで(笑) 輪郭の線の一部を無くすことでプリントされた水着にも見えるし、体に内在しているイメージにも見えるという、曖昧な表現にしてみました。モノを買いに行く場所ですが、モノではない何かを見てもらえたら、という意図があります。

と同時に、散らばってる文字を組み替えて好きな言葉を作ってもらって遊んでもらうという楽しみもあるかなと思います。

これは下描きみたいなもので、今は大体スケッチブックに何か描くところから始めるようにしています。
その中で良さそうなものを下絵にまで仕上げたりて、それをパソコンに取り込んだりiPadで描いたりとかですね。2人の女の子を描いてみて、ポスターとジークレーで2人描くのも考えたんですが、ちょっとややこしいかなと思い、今回は色変えのみにしました。

どういう絵にしようかなと着色のラフをiPadで描いたところの写真です。
iPadだとスキャナーがなくてもカメラが付いているので、スケッチブックを写真で撮って、それを下絵にしてすぐに絵が描けるので便利ですね。

-バーニーズについてはどういう印象ですか?

白根ゆたんぽ:買い物をするだけではない場所、ハレの日に行くところという印象があります。恋人ができたら一緒にウィンドウショッピングしにいったり、そこでお互いのプレゼントを買うとか、非日常なところで楽しい思い出を作る場所という印象があるので、そことチャリティーが気持ちいい感じで組み合わさるといいなと思っています。学生さんだとバーニーズをあまり知らない方もいらっしゃると思うので、その学生さんたちにどう届くのかも興味深いです。

-学生さんにどういう風にアートを楽しんで欲しいですか?

白根ゆたんぽ:この歳だから言っちゃうのかもしれないですが、発信側になる場合、ある意味今はお金がかからない部分も多いんです。僕たちの始めた時代よりも印刷代が安かったり、当時はパソコンもプリンターやスキャナーとか揃えたら200万円くらいしちゃったんですが、今はなんとかiPadを手に入れればそこから発信もできるし絵も描ける、スマホ1台でもやっている人もいますし、そこに関しては時代の良し悪しがありますけど、今の時代にも良い部分、楽な部分はあるよと伝えたいですね。

絵を見て楽しむということでも僕がやっているレベルの展覧会だったら大体が入場無料だったりするので、そしたら電車でも自転車でも使って回ればいろんな展示が見れます、東京や他の大都市に来れば、というのはありますが。iPadやスマホではなく実際に絵を見る機会を増やすと楽しいかと思います。

-“買わなくてもいいから、良いものを直接見に行くことが大事”

色んなものを見たり経験するのが大事とよく聞いたりしますが、その体験こそが何かの引き出しになるのかもしれないですね。

白根ゆたんぽ:その人がどういうものを面白いと思ったり感動したりしたかがその人の考え方や作家性に繋がるのかなと思ってまして、さらには好きなものを見つける作業だけでなく、面白がり方や感動できる目線の持ち方をどう増やすかも大事かなと考えたりしています。

例えば洋服でいうと興味がなかったり何も知らないと高い服を触ったとしてもぽやーんと見るだけになると思うんです。ですが、そこに経験や知識があるとこの生地がどうとかディティールはどうだとか、受け取り方が違ってくると思っていて、それはある程度見たり知ったりしないと次の面白さに辿り着けないので、色々なものを見たり体験することは大事だと思います。

-今の学生さんと実際に関わる機会はありますか?

白根ゆたんぽ:週一ですが、母校でゼミを受け持っていまして、18人のクラスですが、そこで話しています。

-今の学生の方は自信のない人が多いように見受けられるのですが、自信をつける為にやった方が良いことはありますか?

白根ゆたんぽ:印象なのですが今はSNSで怒られたりするのを恐れて防御が先に働いてしまっているのかなと、そこで一方的に頑張れと言っても難しいかなと思います。とはいえ多かれ少なかれ必要なのは勇気だと思っています。

自分の作ったものを人に見せることって恥ずかしいことだと思うんですが、恥ずかしいけどそこで見せたいものをどう見せるかとか、小さい勇気を使ってでも徐々に経験を積むことが次に繋がっていくのかなと思います。

大人でも今後どうなっていくかわからない世の中ですし、そんな中で失敗しないようにしよう、手堅く行こうと思う学生がいることも理解はできます。なので無理に頑張れと言うわけにもいかないかなと。じれったい時もありますが見守るしかないですよね。こっちから見えないところで頑張っている人もいると思うんですけど…出てくる人は出てきますし、別の道に行く人は別の道に行きますし、こういうことをしたいですって時にはちゃんと話はしますが、無理に作家になれとかもっと前に出ろとかそういうことは言わないです。

-これからのご活動について

-今まで様々な活動をされてきたと思いますが、もう一度やりたいことや挑戦したいことがあれば教えてください。

白根ゆたんぽ:どの職業もそうだと思いますが、なるのは簡単だけど続けるのが難しいのかなと思っていまして。イラストレーターだったり絵を描く仕事をできるだけ長く続けていくにはどうすれば良いかな、とデビューしてからそれを結構考えていたりします。それが挑戦といえば挑戦なのかもしれません。今はSNSが仕事を助けてくれることもありますが、告知したりメールでやりとりしたりだとか、絵を描く以外の時間が増えてきちゃってるなーと感じてまして、家に帰ればYouTubeやNetflixを観たりして時間が過ぎちゃったり。仕事には直接関わりがないような創作活動や、本を読む時間をどう取り戻すかを考えています。1日にちょっとだけでも本を読もうとか、撮り溜めた動画を編集しようとか、そうした時間をどう増やしていけばいいかを考えています。

-動画の編集もやっているのですか?

白根ゆたんぽ:今年の目標は動画、版画、漫画、と言ってたんです。動画はちょっとづつ勉強していまして、イベントの告知動画を作って発信も出来ました。版画もギャラリーの協力で作ることができて、ただ、漫画はなかなかタイミングが合わず年内に発表できそうもなくなっちゃったんで、そこが反省点です。漫画描いて発表してみたいですね。(笑)

-来年、漫画を楽しみにしています!

白根ゆたんぽ:しっかりしたストーリーがあるものとかではなく、ゆるくてエロいものがイメージなんですが、まずは描かないとですね。漫画でもなんでもいいんですが自分から発信するコンテンツが少ないなと自覚してるのでなんとかしたいところです。

-最近注目しているアーティストさんはいらっしゃいますか?

白根ゆたんぽ:いるけどここでは言わないということで。イラストレーターさんでもグラビアアイドルでもその時々で注目している人は結構います。

とはいえ、新しい人はどんどん出てくるし、Instagramとかでも見たことない作家さんでフォロワー数見ると軽く20万いっていたりする人とかザラにいるので、そこを探すためのアンテナを張ることはあまりしなくなりました。もちろん目に入ってきて面白いなと思う人とかはいるんですけど、先ほど話したように何を見て何に感動したか、面白いと思えるかというところで圧倒的に勉強が足りないと思っています。今は昔の日本画とか学校で美術の授業で教わらなかった作品、明治や大正の美人画などを見るのとかも好きで、昔からあったのに知らなかったものを見ることに興味があります。新しいものは目に入ってくるし、自分でも追うのですが、それよりも過去の歴史も含めて知っているのと知らないのでは作家性に開きが出ることがようやくこの歳でわかってきたので、今更ながら勉強しています(笑) 

-ありがとうございました!


PROFILE

白根ゆたんぽ
1968年埼玉生まれ。東京在住。フリーのイラストレーターとして幅広いジャンルの企業コラボ、Webコンテンツ、広告や書籍、雑誌などの仕事に多数携わる。クライアントワークの他、年に数回の個展、企画展や海外アートフェアへの参加なども行う。12月に大阪、東京で「美人カレーカレンダー2024」の展示を予定している。

instagram: https://www.instagram.com/yuroom/
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