photo
  • インタビュー

O.C.S.D.チャリティーアート展 インタビュー 「角谷紀章」

神尾なつみ
2023.11.16

11月17日からバーニーズ ニューヨーク銀座本店にて行われる
「O.C.S.D.チャリティアート展」
今回は、作品を通して他者に想像させることをコンセプトに制作しているアーティスト 角谷紀章さんに作品の見どころなどについて聞いてみました。

-現在のご活動に至るまでの経歴を教えてください。

角谷紀章:兵庫県神戸市出身で、高校までは美術とは関係ない普通科に通っていました。

幼少期から絵画教室に通っていて他の習い事もしていたのですが、絵を描くことやものを作るということが自分にとって好きなことだな、というのは幼い頃から思っていました。高校で進路や将来どんな仕事に就きたいかを考えた時に、絵を描いたりものを作る仕事に就きたいと思い、美大を目指しました。

最初は京都市立芸術大学に行こうと思って地元の画塾に通っていたのですが、冬ぐらいに東京の美術予備校に1回行ってみてその時に自分よりも技術が上の人たちがこんなにもいるんだということを知って、東京藝術大学に進路を変更して1年間東京で浪人をして入学しました。東京藝術大学の日本画を専攻していて博士課程まで出ました。

今は日本画の研究室で助手をしながら、自分にとって”リアリティーのある表現”とはどのようなものか?というのを追求した作品を制作しています。

スマートフォンで切り取った日常の風景を描く

-作品のアイディアソースはどのようなところからきていますか?

角谷紀章:すりガラス部分の景色はスマートフォンで撮影したスナップ写真をモチーフとし、撮影した際のボケ・ブレ感に着想を得ています。

ほぼ毎日写真を撮っていて、何気ない日常の風景写真を写真フォルダにたくさん溜めています。
どれも自分の生活の中で撮ったものなので特別な写真というものはなくて。写真によっては撮影したときの記憶がすごく鮮明な写真もあれば、なんで撮ったのか、いつどこで撮ったのかもわからない写真もあったりします。

その中から作品に落とし込む写真を選ぶ際は、あえて、写真を撮ったときの記憶が鮮明ではないものを選ぶようにしています。

-記憶に残りやすい写真ではなくどこにでもあるような写真を選ぶということですか?

角谷紀章:写真を描いているというよりかは写真を元にして景色を描く意識で作品に取り組んでいます。水で絵の具を滲ませながら描いているので、偶然の表情とか水の動きで決まってきた形とか色合いを元にそこから繋がっていくように景色を精密に描いているので、実際のその時の記憶が鮮明だとその時の自分の中の強いイメージを表現しようとしてしまうのかなと思っていて。そうではなくて、自分の堆積された経験や記憶から作品が立ち上がっていくようなイメージで作品作りをしています。

-最初から日本画を描かれていたのですか?

角谷紀章:そうですね。和紙に岩絵具とメディウムに膠(にかわ)というものを使って、基本的には日本画の伝統的な技法を学びつつ、そこから絵画表現として自分で色々研究したり模索しながら作品を作っていました。

-今の作品のスタイルになったきっかけは何かありますか?

角谷紀章:博士3年で、論文を書く中で自分の表現が固まってきたと思います。

論文を書いて作品を発表することで博士号をもらえるのですが、論文を書くにあたって自分の制作を言語化していくんですけど、その際に自分の作品の根底に何があるかなと考えた時、見えづらさとか、ぼけた表現やブレたような表現などをよく描いているなと気づきました。

-アーティストとしてご活動されているのは2021年からですか?

角谷紀章:そうですね。それまでは日本画の展覧会のようなところで作品を発表していたので、今のシリーズを制作しはじめたのが2021年でその年に大学を卒業したという感じです。

-これまでの活動の中で、印象に残っていることはありますか?

角谷紀章:今年の9月に初めての個展をやったのですが、それが印象に残っています。

最近のことだからというのもあるのですが、個展ということで自分の作品だけでどう構成するのか?とか、個展に向けてちょっと違うこともやりたいなとか、準備期間も含めて考えることが多かったので印象に残っています。

あとは、A-TOM art Awardというコンペで「Frosted Window」というシリーズを初めて出したときですね。ファイナリストになって展示をしたのですが、日本画ではない新しい作品を人に見てもらう初めての機会でした。

その時は今より自分の感覚的な部分を大事にしながら制作をしていることが多かったので、人の意見を聞けたというのが今の「Frosted Window」シリーズの基礎になったのかなと思います。

-ファンの方の意見を作品に反映したいなと思うことはありますか?

角谷紀章:直接的ではなくとも、意見を聞き入れるようにはしています。

最初は自分が使い慣れている画材だったということもあって、岩絵具で描いていたんですよ。でも、岩絵具は粒子が粗いので解像度を上げたり、写真や現物のようにリアルに描くのには向いていない画材なんです。

自分の中でぼけている所と周りの世界の対比が自分の中で完結していたのもあってそういう画材も使っていたのですが、岩絵具で描いた周りの描写がもっと解像度が高くてより見えたら共感しやすいな、という意見もありました。

最初から自分なりに解像度を上げたいなとは思っていたのですが、もっとこうしてみようかなと考えるきっかけになった気がします。

-作品を作る時に大切にしていることがあれば教えてください。

角谷紀章:僕は基本的にシリーズで描いているので、作品の表現や構造みたいなものは同じです。自分の中では解像度を上げていくことや画材を変えたり、基底材の布もシリーズの途中で変わっています。

描く景色ごとに自分の中で表現を更新していくというか…。自分の中でちょっとでも違うものにしようという意識はありますね。

絵を描いていない時間も絵のことは片隅にあるんですけど、次の日実際に絵の前に行くと自分のイメージがまたちょっと違って見えてきたりもします。

絵を描いていない時間も大事にするように心がけています。

-オンとオフの切り替えみたいなことでしょうか?

角谷紀章:そうですね。むしろ描かない時間の方が、こういう作品を作りたいなって考えたりするんですけど。絵に向き合わない時間のほうが案外大事なのかなと思いますね。

-すりガラス越しの景色からイメージした「Frosted Window」やカーテン越しの景色からイメージした「Curtain」が印象的ですが、そのような作品スタイルにしようと思ったきっかけがあれば教えてください。

角谷紀章:自分が作ったものを人はリアルだと思うのかなというのをまず最初に考えていたんです。

僕は、見る人の記憶とか経験の中で見てきたものが想起される方がリアルなのではないかと思って、シリーズに「Frosted Window」とか「Curtain」というタイトルを付けていますが、実際のすりガラスとかカーテンの見え方を表現しているというよりも、見ることを妨げる”ノイズ”っていう風に捉えています。ノイズを通すことで、見る人に委ねたリアリティーみたいなものが生まれて、例えば海外の人が見ても、隠れているものがその人たちの国の経験だったり原風景というのが想起されればなと思っています。

自分の中で「これを表現したい!」というのではなくて、リアリティを共有するための装置のような感じでこのシリーズを作っています。

-人それぞれ自由に受け取ってほしいということですか?

角谷紀章:そうですね。だからこそ展示の場でお客様と話をしているとこれってこの場所ですよね、とかぼけたところはこれを描いているんですよねとか言われるのですが全然違ったりするんですよね。

逆に井の頭公園を描いて、井の頭公園ですよねって言われたこともあります(笑)

-一致することもあるんですね!

角谷紀章:一致することももちろんあります。そういう話をしている時に自分自身が全く想定していなかったことだったり、そういうのも含めて自分としては面白いと感じています。

-普段、制作で悩むことはありますか?悩んだ場合はどのように向き合っていますか?

角谷紀章:悩むことはあります。今向き合っている作品から離れることはあります。

大学で制作をしていて、家に帰ったら離れているのかなというか(笑)

行き詰まるというのが、迷いが多い行き詰まりと、もうもうどうしようもない行き詰まりの2種類あって…。

どうしようもない行き詰まりになる時は描くのをやめますね。もうその作品は失敗!って感じにします。

-ボツにしてしまうんですか?

角谷紀章:すぐ捨てたりはしないのですが、長い時間が経って見返した時に案外表現として悪くないなということもあったりはします。

-今は何作品を同時に描いているのですか?

角谷紀章:12月に個展をするのですが、個展では最近発表しているシリーズとは全く違うものを出そうとしていて、今は新しいものにかかりきりという感じです。ちょっと大きめのものを描いています。

-どのぐらいのサイズの絵なのですか?

角谷紀章:タテが2m弱でヨコが3m50cm弱くらいですかね。

2枚のパネルをくっつけてている作品です。

-かなり時間がかかりそうですね…

角谷紀章:そうですね、結構まだ時間がかかりますね(笑)

<学生時代について>

-中学、高校、大学時代に熱中していたことはありますか?

角谷紀章:めちゃくちゃ普通の学生だったのでこれ!というものはないのですが、絵を描いたりものを作ることはずっと好きでした。

中学校は美術部に入っていて、高校はラグビー部に入っていました。すぐにやめてしまいましたけど(笑)

それまではただ好きだったから画家になりたいなとかイラストレーターになりたいなって思って美術が漠然と好きだったのですが、自分には向いていないことをやってみたという経験を経て、自分に向いているものってなんだろうって考えた時に、絵を描くことが自分に向いているなと思ったので美大に行こうと思いました。

「好き」と「向いている」が一緒だったのでよかったなって感じです(笑)

-いま学生時代を振り返って、こうしておけばよかったなと思うことはありますか?

角谷紀章:英語ですかね。高校は進学校だったのでみんな美術系に行くわけではなくて、みんなめっちゃ勉強してる感じでした。

自分は全然成績は良くなかったのですが、国語はなんか向いてて勉強も苦じゃなかったです。英語は向いていなくてもやった方がよかったなと今になって思います。

コミュニケーションができるかできないかだけでコミュニケーションが取れる人の数が全然違うという意味ですごく重要なツールなのかなと思います。

-仕事以外でも英語が話せたらよかったなと思う瞬間があったのですか?

角谷紀章:あります。美術予備校でアルバイトしていた時に海外の学生さんが来たりとか、学校が原宿にあったので駅からバイト先に行くまでの間に海外の人に道を聞かれることが結構多くて。教えてあげられたらよかったなって(笑)

今だったらいっそ留学とか海外に行ってしまった方が身に付くんだろうなとは思いますけど、やっぱり負担が大きいじゃないですか。

だったら3年間もあった高校生の時にやっておけばよかったなと思いますね。

-現在美術の道に進もうとしている学生に、メッセージを伝えるとしたら何と声をかけますか?

角谷紀章:ざっくり「美術」と言っても色々な分野があると思っていて。例えばアニメやイラストが好きで自分もそういう業界に行きたいという美術もあれば、単純に何かを作るクリエイティブな感覚が好きだからそういう業界に行きたいとか、画家になりたいとか、アカデミックな学校に行きたいとか。活動する拠点がどこなのかとか、多岐に渡ると思うのですが、例えば子どもの頃から絵を描くのが好きだから漠然と美術の道に進みたいと思っているのだとしたら、色々な物をたくさん見て、自分の好きなものはどういうベクトルに向いているのかというのを知るといいのかなと思いますね。

例えばこういう仕事に就きたい!と決まっている人が、美大の日本画学科に進んで4年間使うのはもったいないんじゃないかなと思います。

それで色々学びはあると思うのですが、絶対にこういう仕事に就きたいと決まっているのにわざわざ表現とか作品を作るというものに4年間費やす必要はないかなと思います。

それだったらそれだったら仕事に早く就ける場所に身を置いて現場に近いところで現場の感覚を学んだ方が良いのかなと思います。


-チャリティーアート展の作品について

title:Frosted Window#72
title:Curtain#20

-チャリティーアート展へ参加してくださった理由があれば教えてください。

角谷紀章:自分が作る作品は値段を付けて売っていますが、自分としてはその価値をお金に換算しづらいものなのかなと思って。一応相場があって販売しているし買ってくださる人がいるからその価値を自分は担保しなければなと思って作品に臨んでいるのですが、例えば金みたいにその価値があるかというとそういうものではないと思うので。

自分としては自分の手で絵の具を塗っているだけなので(笑)チャリティーはやったことがなかったのでやってみたいというのもありますし、ものでお金が生まれて誰かの役に立つのであれば良いかなというか(笑)

-今回の作品のポイントを教えてください。

角谷紀章:コンセプトはどちらも同じような感じなのですが、
「Frosted Window」の真ん中がぼけているシリーズは、絵の主題みたいなものって画面の中央付近になることが多いと思っていて。なのであれは主題が隠れているイメージというか、作品の世界の中心に向かって見る人が入っていってほしいような作品です。

Curtain#20

「Curtain」のシリーズは真ん中の方が見えているんだけど外側に向かって見えなくなっています。「Curtain」は「Frosted Window」の後に作った作品なのですが、むしろその画面を超えて外側に見る人の意識が広がっていくことを狙った作品なので、同じような感じなのですが実はちょっと違っています。

なので見ていただく人はそんなことを思いながら見てくださったら嬉しいですし、一つ一つの作品の風景に思い入れを持っている訳ではなく、あえて持たないようにしているのですが。ただ試行錯誤しながら時間をかけて描いたかな、って感じです!(笑)

-今年のテーマである「TASTE・LUXURY・HUMOR」をどのようにして表現しようとおもいましたか?

角谷紀章:直接的には表現していなくて、割と間接的かな〜と思います。「LUXURY」はあまりフィットしないかもしれないのですが「HUMOR」とか「TASTE」は人によって違う感覚なので自分は(鑑賞者に)委ねている部分があって、作品から勝手に広がっていけばいいなと思っているので。そういう意識を持って作品に臨みました。

-今年のチャリティーアート展は、11月にバーニーズ ニューヨークの銀座本店で行われますが、バーニーズ ニューヨーク(以下:バーニーズ)の印象などは何かありますか?

角谷紀章:自分は今横浜の元町・中華街の方に住んでいて、そこにバーニーズがあって。めっちゃ近所でよく通ります(笑)

名前は聞いたことあるけれど、どんなところなんだろうと思っていたら、しょっちゅう通ってるお店でした。「ここの銀座か〜!」みたいな(笑)


・東京藝術大学でご勤務されておりますが、最近のアート業界について何か思うことはありますか?

角谷紀章:日本画にいたのもあって、自分が今作品を発表しているコンテンポラリーの業界に全然詳しくないのですが、この業界は若い人が多いなという印象です。

その反面色々な人や作品があるなと思いますし、大きい業界だなと思いますね(笑)

-他の方の作品を見られることはありますか?

角谷紀章:あまり詳しくはないのですが、個人的に技術が高いものが好きです。

絵画に限らずテクニックで感動することが多いので、そういう作品は見に行ってすごいなと思います。コンセプトや作品の背景はもちろん重要だと思いますし、作品の強度として必要だとは思うのですが、やっぱり表面というかものを作る上でテクニックって大事じゃないかって思いますね。

-そういう点では日本特有の繊細さみたいなものがウケが良いのですかね?

角谷紀章:確かにそうかもしれないですね。

-国内外問わず作品は色々見られているのですか?

角谷紀章:あまり詳しくないのですが、最近だとネットで作品も見れるのでSNSで回ってきて、携帯の画面でわかる範囲で好きだなとか、かっこいいなと思うことはあります。

-これからの活動でやってみたいことはありますか?

角谷紀章:大きい作品を描きたいというのがあって、丁度今、この場所で描ける限界の大きさを描いています。1人では持てない大きさで壁のような絵とか、そういうのは自分の体力があるうちに挑戦したいなと思います。

自分の作品の根底にあるのは曖昧さだったり、言い切らないで委ねた感じが自分は日本の若者言葉の「〇〇みたいな」とか「〇〇的な」の濁す表現で、若者言葉に限らず日本語ってそういうところが多いのですが、自分の作品は日本的だなと思っています。

日本の文化を反映した作品っていっぱいあると思うのですが、自分たちの生活に根付いている文化が反映されている作品だなと思っているので、そういうものを海外に持って行った時に自分の作品を通してそういうニュアンスが伝わって受け入れられたら、それは面白いかなと思います。

今入っている海外の展示とかも基本的にアジア圏なので、アジアの人には100%かは分からないですがなんとなく受け入れられている感覚はあるので欧米だったりとか、地域に限らず自分の作品が受け入れられればいいなと思っています。

-今後の角谷さんの活動も楽しみにしております!ありがとうございました!


PROFILE

角谷紀章
略歴
1993年  兵庫県神戸市生まれ。
2022年 東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程美術専攻日本画研究領域修了 博士号(美術)取得。
主な展示歴
2021年 FACE2021 / SOMPO美術館
2021年 A-TOM ART AWARD / コートヤードHIROO 
2021年 第30回佐藤美術館奨学生展 / 佐藤美術館
2022年 ART FAIR ASIA FUKUOKA2022 /  四季彩舎
2022年 WHAT CAFE EXHIBITION Vol.22 / WHAT CAFE 
2023年 ART FAIR TOKYO/四季彩舎
2023年 WHAT CAFE EXHIBITION Vol.26 / WHAT CAFE
2023年 個展「媒介であり防護壁」/銀座蔦屋書店・四季彩舎
Instagram:https://www.instagram.com/kishokakutani/