4回目です、いつも見てくれている方、初めての方もありがとうございます。今回は酒屋、待ちに待った映画館へ。また自粛ムードが高まりそうな夏休みのすごし方のヒントもあるかも?それでははりきってどうぞ!
朝、酒屋のルーティーンは床のモップかけから始まる。金曜日はあるラジオ番組の新作映画コーナーがBGMだ。いつも途中からしか聞けないから、その映画の説明を聞きながら、これはきっとあの映画だな、なんて予想する。
「映画『デッド・ドント・ダイ』本日公開です」
6月の初め、そのラジオからかなり久しぶりのアナウンスが流れた。コロナショックでほとんどの新作映画が公開されていなかったけど、その間この映画コーナーは何を伝えていたのだろう。毎週聞いていたはずなのに思い出せない。この2、3ヶ月、私もラジオもどこか上の空、普通ではなかった。「本日公開です」は私たちにとってものすごいパワーワードだったのだ。
それからは毎週のように映画館へ出かけている。ステイホームの反動で学生さんたちが押し寄せていたらどうしよう、なんて思ったけど地方の映画館はまだまだガラガラ。それでも久しぶりの映画館、なんだかドキドキしたし、予告編を見るだけでも感動してしまった。スマホをオフして2時間ばかりを共にした老若男女わずかなお客さんも同じような気持ちだったにちがいない。待ちに待った映画は幸いなことにどれも傑作で、私の心はいろんな感情で満たされた。長い梅雨と前後して、映画に行く日はほとんど雨が降っていたのも完ぺきだった。
「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」(2018年・米)は私が敬愛するウディ・アレンの待ちに待ちすぎた新作だ。毎回実力者が揃うアレン作品だが、ティモシー・シャラメ、エル・ファニング、セレーナ・ゴメス、ここまでタイムリーにときめきまくっているキャスティングは後にもきっと先にもないだろう。加えてシンプルでロマンティックなタイトル。ウディ・アレンが雨のニューヨークを撮る、ファンからすればもうこれだけで3年くらい(私はこの作品の存在を2017年に知った)は余裕で待てちゃうのだ。(とは言うものの2017年というとガーディアンズ・オブ・ギャラクシーvol.2が公開された年なので体感としてはすごい前な気がするのだ!)
どこかで見たような聞いたようなクラシカルなラヴストーリーにウディ・アレンらしい軽薄さとノスタルジック、雨がなじんでいく。その中で、それぞれのキャラクターの心が少しずつ変化しある選択をする。それはもしかしたら〇ではないかもしれないけど、決して×でもない。人はそういう選択を繰り返して生きていく。さらっと書いたが彼の映画で感じる“軽薄さ”に私は何度も笑わされたし、善かれ悪かれ救われてきた。
今作に限らず、ウディ・アレンの映画ではその街自体が重要なキャラクターである事が多い。最近のパンフレットには映画の舞台になったレストランやホテル、街角が紹介されている。映画を見たあとでおさらいすると街の雰囲気をより楽しめるし、いつかここへ行ってみたいなあと思いはふくらむ。聞いた話だと今年は夏休みも短いらしいし海外旅行はもちろん行けないだろうから気分だけでもニューヨークへいかがだろう。
ちなみに私は大学の卒業旅行で一度だけニューヨークを訪れたことがある。憧れの街でもあったし、もちろん刺激的で忘れられない思い出となった。しかし、私が実際に見た風景や写した写真は生粋のニューヨーカーが切り取った画には遠く及ばず、これなら映画を見ていたほうが良かったかもな、と一瞬思ったことを告白しておこう。リッチなご家庭もあるだろうがコロナもあるし今学生さんには千円台からの海外(映画)旅行をオススメする。
彼の映画を見に行くときは今でも良い緊張感に包まれる。髪を切りそろえ、髭を整え、爪を切ってそれなりの身なりで出かける。映画の30分前に映画館で彼女と待ち合わせをする。置いてあるチラシやポスターを眺めながら今日は何を食べようか、とか話しながら館内の雰囲気を楽しむ。映画を見終えて余韻のままふたりで雨の街をふらつく。
雨はふたりを親密にする。なんてウディ・アレンは言っているけど、おっしゃる通り。今だって雨は愛する人とのソーシャルディスタンスを無効化するのだ。彼は40年以上ほぼ毎年映画を撮っているが私の眼にはいつの時代も雨は印象的に映った。同じように、特にラヴストーリーに関しては、例えば今2020年に初期の傑作「アニー・ホール」(1977年・米)を見ても、逆に1977年に生きる人が今の「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」を見ても同じように共感できるはずだ。“身の丈に合った”と評される彼の映画は、常に普遍的でそれゆえに魅了されるのだろう。ハゲでチビでメガネのおじさん(ウディ・アレン)が映画の中でモテるのを真に受けて、それなら私でも、といろいろと真似したことも告白しておこう。
というわけで私の恋愛観は彼の映画で形成されていると言って過言なく、もっと大げさに言うと正直なところ今まで生きてこられたのはアナタのおかげですというくらい影響を受けている。それでも90年代に当時のパートナーのミア・ファローとの間に迎えた養子とデキちゃったことを知った時は、さすがにおっさんなにやってんだよ〜と思った。その当時も結構なスキャンダルになったそうだが、結局それが尾を引いて(ここらへんのことは例のごとく気になる方は調べてみてください)彼は今84才にしてアメリカから干されている。「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」の公開は世界的に遅れ、アメリカでは未だに公開予定すらない。
真実がわからない以上、外野は見守ることしかできないが、この状況でも彼はすでに新作をヨーロッパで撮り終えたという。無責任と思われるかもしれないけど、本音はなにを言われようが映画を撮り続けてほしい。また来年も再来年もその後も。ウディ・アレンもみなさんもどうぞコロナにはお気をつけて。終
オオヤマケイタロウ
イバラキの酒屋。暑くなってきたので髪を短くしました。「ダーク」という海外ドラマにハマっています。