photo
  • コラム
  • 映画コラム
  • 青春

スマホをオフせよ、映画を見ようVol.5

オオヤマケイタロウ
2020.10.19

朝、暑さで目が覚める。頭がボーっとして少し手足がしびれている。酸素が足りないというかなんだか苦しい。イバラキに戻って5年、今年の夏は暑かった。

似たような苦しみが前にもあったなと思い出したのはフジロックのキャンプ生活だ。日向にテントを立ててしまうと、朝6時には猛烈な暑さでたとえどんなに疲れていても目が覚めてしまう。溶けそう~と水のペットボトルに手をのばすとそれもお湯になっている。あのときに比べれば全然マシだよな、家だし。とフラフラしながらエアコンを点ける。2005年に初めて苗場に降り立った私+しろうと2人は、アウトドアなんてしたこともないから、便利なギアはもちろん、クーラーボックスすら持って行かなかったのだ。真夏にお湯を飲んでいたわけだが、それが今の私(夏でも飲み物は常温以上でいただきたい派です)の礎になっているのかもしれない。

 、、、なんてことはどうでもいいとして、一度でも行ったことのある方はご存知でしょうけど、フジロックは結構過酷だ。朝のサバイバルだけでなく、移動距離は長いし、変わりやすい山の天気にも気を使う。そこら中で売っているビール、うまいメシ、ピースな雰囲気ではカヴァーできない瞬間が何度も訪れる。そんな状況で見る大自然の中でのライブはそれだけでサイコーなのだけど、激しい雨でも降っていればもっとすごいことになる。フジロックは大変だけど、その風景は疲れた身体をつらぬいて頭の中の日々の喧噪までも吹き飛ばしてくれるのだ。

 毎年楽しみにしていた人も、初めて行こうとしていた人も、ここまで読んでいて、ちょっと何言っているかわからないわ、という君も、サヴァイバルはちょっと、、、というアナタも、どれにしろ今年のフジロックは来年に延期され、他の音楽イベントも軒並み中止になっている。果たして来年もどうなるかはわからない。なので、ちょっと音楽を聴きに映画館へ行ってみるのはいかがだろうか。

「WAVES/ウェイブス」(2019・米)は、今をときめくA24スタジオが制作した“プレイリストムービー”と呼ばれる新しいスタイルの映画だ。新しい?って言っても出来の良いミュージックビデオみたいなもんでしょう?と私のように安易な想像で見るとド肝を抜かれるだろう(からある意味オススメの見方だ)。

なにがすごいかって、とにかくずーっと音楽が鳴っている。今までも、その作品の時代設定や背景を表すような楽曲をさらっと織り込んでいたり、物語の展開や人物の感情やその変化を楽曲とリンクさせたりといった映画はあったが、音楽はあくまで作品の一部だった。それが今作はそのどれよりも音楽に埋め尽くされながら、しかもその楽曲全てが見事に物語・映像と溶け合っているのだ。物語があってプレイリストを作ったのか、プレイリストを基に物語を構成したのかわからないほどに。

音楽と物語がそれぞれの方向から、主人公の高校生兄妹のリアルな生活を紡いでいく。家族や、家族と同じように大切な恋人、友人たち。夢と希望。肌の色や国籍、文化が違えど、日本に生きる学生の皆さんが共感できる瞬間もあるのではないだろうか。いつからおかしくなった?終わりはいつ?答えのない問いの中で愛と憎しみを行き来しながら、二人は生きていく。音に包まれながら、それは優しくて痛烈でとんでもなく美しかった。(美しいと言えば、妹エミリーを演じるテイラー・ラッセルさんはゲロマブとてもきれいな方なのでどうぞご期待ください:-)

あなたは今から二時間ほどこの暗闇の中で拘束されます、もちろんスマホはオフで。と言われたらどう思うだろうか。映画館とは、ある意味そういう空間だ。フジロックでも携帯は使えるので、映画館の方がヤバいキツいと思う人もいるだろう。ただ映画館は雨には濡れないし、エアコンは完備、トイレは近いし飲食も可能である。つまり映画館は、都市型フェスより快適なのに、野外フェスより非現実的なひとときを味わえる空間なのだ。

日常の中、なんとなく聞いていた誰かのプレイリストや、スマホで見ていた映画で世界が一変することもある。音楽を聴き続ける、映画を観続ける大きな理由だ。でももし同じようなことを映画館という非現実的な空間で体験したならば、自分の理解を越えた宇宙の秘密を垣間見る、くらいのことが起きるかもしれない。暗闇だし。

映像を聴いている×音楽を観ている=こんなのはじめて。正直に言うと、私は「WAVES/ウェイブス」という作品にぶちのめされたのだ。小さき悩みは彼方へ吹き飛んだ。このように、ちょっと映画館に音楽を聴きに行ってみたら、もしかして奇跡的にフジロックの最高の瞬間みたいな経験ができてしまうかもしれない。思いがけず普段の感覚を飛び越えて、ああ今何だかすごいかも、みたいな。とは言うものの、音楽を聴くならやっぱり「生」が一番だ。フェスでもライブハウスでも、早く(非)日常が戻りますように。映画界では一足先に超が付く大作もいよいよ公開される。これだ!という映画を見つけたらぜひとも映画館で聴いて、観てほしい。私はそれが映画の「生」だと思うから。終


オオヤマケイタロウ

イバラキの酒屋。ハンドクラップダンスを続けているが効果が出ているかわかりません。今ハマっている海外ドラマはアンブレラアカデミーです。

TAGS
  • lineロゴ
  • facebookロゴ
  • twitterロゴ