11月17日からバーニーズ ニューヨーク銀座本店にて開催
「O.C.S.D.チャリティアート展」
今回は、新埜康平さんに作品の見どころなどについて聞いてみました。
-武蔵野美術大学で日本画を学ばれていたとのことですが、大学卒業後から現在のアーティストとしての活動に至るまでの経緯を詳しくお聞かせください。
新埜康平:武蔵野美術大学を卒業した後、最初はアルバイトをしながら作家活動をしていました。
在学中は作家としてやっていきたいと決めていたのですが、日本画なので、団体に所属した方がいいのか、個人でやっていく方がいいのかというところで悩んだり、アーティストとして活動していくにはどうしたらいいのかなっていうのを常に考えていました。
卒業してからも、どういう形で社会にコミットしていくのか?自分はどういう風に作家活動をしていくのか?っていうのを色々と考えていました。
色んなご縁があって作家活動を続けさせていただいてるという感じで、本当に色んな人に支えていただきながら活動を続けてくることができたと思っています。
-在学中にアーティストとしての活動はされていたんですか?
新埜康平:展示とかも全然やっていなかったです。
でも何故か、やったことがない事や分からないことに対して異常な自信がありました(笑)
想像でしかないからっていうのもあって、何から手を付けたらいいのか悩んでいたので、大学の教授とか友達、地元の同級生など、とにかく色んな人と話したりして、自分がどういう風にやっていくかを徐々に決めていったという感じですね。
自分で決めていったっていうよりはいろんな人たちに支えてもらって今があるなと思います。
-絵を描いていきたいという想いはいつ頃からあったのでしょうか?
新埜康平:中学生の頃ですかね。
元々スケボーをずっとやっていたこともあって、中学生から高校生くらいまではスケボーの板の裏に絵を描いたりしていました。ストリートカルチャーはその頃から好きですね。
大学は美大に行ったんですけど、がっつり美術から入ったという感じではなくて、街にある身近なところから入っていったという感じです。
-ストリートカルチャーがお好きであったとのことですが、大学進学にあたって、日本画専攻がどう結びついていったのでしょうか?
新埜康平:高校卒業してからちょっとふらふらしていた時の話なのですが、卒業後、現地のカルチャーを見たくてノリでロサンゼルスに1人でふらっと行ったんです。その時にスケーターと交流をすることができて、その方たちに日本文化を聞いてみた時に、あんまり知らない人が多くて。
外からみた日本っていうのを自分で体感して、それから日本の文化って面白くない?っていう感じで興味を持って、もともとは油画の方に行こうと思ってたんですけど、折角だから、日本画を専攻してみようと思って、徐々にハマっていった感じですね。
-大学で日本画についての授業を受けてハマっていったんですね。
新埜康平:そうですね。学んでいくと結構奥深いなって思うことが沢山あって。
膠っていう定着液を使うんですけど、それを動物の皮膚とかから作って命を使って描いていたり、鉱石とか自然から出来る色を取り入れていくっていうのもめちゃくちゃ魅力的だなと思ったんです。
自分の言うことを聞いてくれない絵具なので、自分の理想の絵が頭の中にあっても、完璧に作れるわけではなくて…。でも、絵具の流動性に任せる作品も魅力的だなと思って日本画というものにハマっていきました。
そこから自分の好きな「ストリート」と「日本画」っていう自然物を使った日本の伝統的なものをうまくフィックスして作品づくりがしたいなっていうので、今はそのような作品のスタイルで制作しています。
海外のカルチャーとかヒップホップとかが好きだったから海外に行ってみたんですけど、実際行ってみたら、日本のカルチャーもなかなかいけてるな!って思って。
そのとき、目線の違いで物事の見え方がだいぶ変わるんだなと実感しました。
-制作するうえで大切にしていることや特にこだわっているところを教えてください。
新埜康平:色と素材は表面的に結構こだわっていますね。
なので日本画画材はこだわっているっていうのもありますし、発色や絵が飾ってある空間がなるべく明るくなるような感じにしたいと思っています。
本質的なことでいうと、日常的なものを少しの目線、角度の違いで、色んなものに見えるっていうのを提案したいと思っているので、そこを意識して描いています。
割と風景を切り取っているような構図にしてるのはそういうとこからきていたりします。
非日常よりかは、等身大で作品を作りたいなって思います。
めちゃくちゃリアルな意味のリアリティというよりも、目線を変えた、物事の裏側というか…そういう意味のリアルさ、そういう等身大な自分の生活とかに根付いた作品にしていこうと意識して制作しています。
-普段生活をしていて、職業病だな〜と思うことはありますか?
新埜康平:結構ありますね(笑)
でも、ポジティブな方で捉えようとはしています。なんでも嫌なことやネガティブなことのほうが目につきやすいと思うのですが、影の部分にも感動はあったりするなっていうのは、モチーフを探すっていう意味でもよく自分の琴線に引っかかったりします。
-実際に作品のアイディアソースになるものって、どういうものが多いんですか?
新埜康平:クロッキーとかは取っているんですけど、目についたものは覚えていたり、写真に撮っておさめていたり、アイディア帳は作っています。
実際それが作品になるのは意外と時間が経ってからだったりもするし、1年前に見たものとかを今描いたりとか全然するんですけど、
結構そういうのを集めたりするのって、記憶が曖昧になったりして私的感情が入らなくなった段階でフィックスしていくことは結構ありますね。
作品に対して、直で自分の感情をぶつけるっていうタイプの作品作りっていうのは全然していないです。
見てくれる方と作品の間にも、ある意味で少し距離感を取りたいという想いがあります。
-作品と鑑賞者の間の距離感を取りたいというのは、具体的にどういう意図がありますか?
新埜康平:第一に作品を断定したくないという想いがあります。
その物事を説明するために作品を作りたくなくて、これは良いもの、美しいものですよねって問いかけたくないんですよ。
それよりも、こういうのってどうですか?っていう提案で収めておきたいっていうか、これが正しいっていうのが、僕自身が得意ではなくて、僕自身かなり緩い性格なんですけど、緩くやりたいから、そこまで説教くさくなるのが嫌ですね。
ある意味余白を残しておくっていう意味で距離を取りたいっていう感じですね。
画面内に見てくれる人の隙間をいれておいてあげたいっていうか、僕自身も描いてるときにその余白が大事だなって思うんですよね。ちょっと距離を取りながら、エモーショナルな部分とかを排除していってるっていう感じですね。
-見て下さってる方にはどう受け取ってもらいたいっていうのはありますか?
新埜康平:ある程度の部分っていうのは、多少なりともあるんですけど、それが絶対ではないっていうか、100%そういう風に取られなくても全然かまわないんですけど。
それを全ては提示していないくらい僕は作品にあんまり陰影とかも描かないし、説明する部分は基本的に排除して描いているので、どういう風に見られても基本的にはいいと思っています。
-展示場所が結構違うと思うんですけど、客層も変わりますか?
新埜康平:お客さんもそれぞれ感想とかも違っていて、その場所場所でっていう感じもあんまりなくて、それこそ場所が変わると見え方も変わるっていう話なんですけど、ほんとにその見え方は変わっているなって思いますね。
銀座でやる展示と、渋谷でやる展示、大阪でやる展示と、ほんとにてんでバラバラで、
外に出るっていうことによって、色んな影響を受けたりそれで作品自体や活動が変化していくっていうのはもちろんすごくあって、色んなところでやるっていうのは今の僕には大事なのかなっていうのを思っていますね。
-展示しつつ、吸収の場でもあるんですかね?
新埜康平:ほんとにそうですね。
展示して終わりではないといつも思っていて、制作して、展示して、それで終了というよりも、また先の方が重要で、そのあとどうするかっていうとこを含めての展示だと思うし、
だから色んなところでやって、色んな人の意見とか、ものの見方とかそういうものと触れ合える機会がより多い方が、より多くの作品とかを作ったりとか、どんどんまた更に大きくなっていく1つなのかなっていうのを考えてますね。
・SNSのフォロワーさんとかファンの方とか、どういう方が多いですか?
新埜康平:SNSだとやっぱり、結構若い人が多くて同年代とか、ちょっと下の世代の方とかそういう方が多いですね。
SNS見て来てくださった方はそういうイメージが多いですね。
大半がそういう方で、なのでそういう普段繋がらない方だったりがSNSだと繋がりがあるっていう面では結構いいのかなっていうのは思いますね。
微妙に僕は世代がSNS世代ではないのでちょっと大変な時もありますけど、
僕はmixiくらいの世代なので、Twitterが出始めてすぐくらいが一番全盛期でしたね。
-チャリティーアート展へのご参加は今回が初めてですか?
新埜康平:初めてですね。
今回のチャリティーのお話をいただいて、すごく嬉しかったです。
作品を通して、間接的には社会と繋がっているといつも思ってはいるんですけど、こういったかたちで社会貢献ができるのはとても嬉しいです。
本当にありがとうございます。
-チャリティーアート展に参加してくださったのはどういうきっかけだったのですか?
新埜康平:今回お声がけいただいて、悩むことなく「参加したい!」と思いました。
今回の展示は、作品の売り上げを学生への支援というかたちで寄付するプロジェクトですが、僕自身、そこまで裕福な環境で育ったわけではなかったこともあって。
そういった過去の自分の経験も踏まえて、今回のプロジェクトに参加しようと思いました。
今大人になって、学生時代を振り返って黒歴史が多いなと感じることがあります。
でも、友達と話してると今はめっちゃ笑えるし、人生の中で良い経験をしたなって思います。
学生の皆さんには、そういうネタを増やしてもらいたいし、なんでもチャレンジした方がいいと思うんです。
でも、周りの環境を考えたりしてチャレンジしないのはもったいないな…って思います。
今回のチャリティーアート展を通して、そういったメッセージを学生の皆さんにも伝えたいという想いもあって、是非参加したいと思いました。
-今回のテーマである「TASTE・LUXURY・HUMOR」をどのようにして表現しようと思いましたか?
新埜康平:まず、そのテーマ自体が僕が普段制作しているものとすごく似ている部分が多いなと感じました。
そういう意味で、「TASTE・LUXURY・HUMOR」を作品に落とし込んでる部分が多いです。
-具体的にはどういう部分ですか?
新埜康平:銀箔を使っている作品も何点か出しているんですけど、あれは純銀箔を使っています。
画材で高級感を出しているのですが、デザインにタギングを入れているので、ストリートカルチャーの要素もあります。お互い離れている要素を掛け合わせることで、ユーモアな感じを演出しています。
-今回の作品の見どころを教えてください。
新埜康平:僕の作品は結構厚みがあるので、素材感が写真では分かりにくい部分ではあるので、実際に店頭で見て楽しんでいただきたいです。
銀は年月が経つといぶし銀みたいな感じで変化するので、時間の経過とともに変化する作品になっています。
作品の下に描かれている文字の部分は、作品のタイトルになっています。
正面写真だと全く分からないんですけど、ある意味立体的にほんとに多角的に色んな方向から見て見え方が変わるのを感じられるような作品です。
いろんな角度からその素材感と一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです!
-バーニーズ ニューヨーク(以下:バーニーズ)の店頭に、ご自身の作品が展示されるということについてどう思いましたか?
新埜康平:めちゃくちゃ嬉しかったですね!
ファッション感度の高い方に作品を見てもらえる機会って貴重だと思いました。
僕の作品スタイルとしても、バーニーズさんを表す「TASTE・LUXURY・HUMOR」が、すごくピッタリだなと思っています。
今までそういう要素を取り入れながら作品を制作してきたので、光栄に思います。
-学生時代に熱中してたものってありますか?
新埜康平:高校の時は、スケボーと映画に熱中していました。
当時に見たものの影響を受けて、今制作している作品にも役立ったりしてるんですけど、何かに集中することとか、その時代に経験して得たものは、将来何かしらに繋がると思います。
振り返ると、学生時代というのは、一番熱中出来る期間な気がしますね(笑)
-学生のうちにやっておけば良かったなと思うことはありますか?
新埜康平:特に英語とか勉強しておけば良かったなって思いますね。
色んな人と関われるから、勉強した方がいいなと思いますけど、最近アプリとか出てるし、それも要らなくなってくるのかなとは思いますね。
でもやっておけばよかったなっていう勉強の一つに英語が入ってきますね。
-学生時代のお友達とは今でもお付き合いはあるんですか?
新埜康平:今でも展示会に子供連れてきてくれたりとか、家族みんなで来てくれたりはしますね。
-学生時代のお友達からは今のアーティスト活動についてどういう風に言われますか?
新埜康平:作品の感想を聞いたり、相談したりしていますね。
自分の感覚的に、この人めっちゃおしゃれだなとか、世界観めっちゃイケてるな、っていう人の意見や言葉を信じています。
-作品を制作される時に完成形っていうのは割と具体的に見えてるんですか?
新埜康平:そうですね。下図作りの段階の方が長くて、完成図が見えたらあとはもうそれに沿って完成させていく感じなんですよ。
日本画って画面の上で格闘するっていうことがないんです。
描いたり消したりが基本的に出来ない素材なので、全てシミになって残ってしまうんです。
例えば、間違えたりはみ出してしまったなっていうところがあったとしても、それをどういう風に活かしていくか考える方にシフトしていきます。
-下絵を描くのが一番大変なんですか?
新埜康平:下絵が一番時間かかるところですね。
どの素材にして、どういうものを使えば、自分の頭の中にあるものをアウトプット出来るのかっていうのを最初の段階ですごく計算するんですよ。
感覚的には詰将棋みたいなもので、手が分かるものに、そこにどうやって駒をさしていけば到達出来るのか?っていう…。それを逆算しながらずっと描いてます。
-制作期間は大体1週間くらいですか?
新埜康平:1週間もかからないですね。小さいやつだとほんとに2日とかそれくらいで出来ちゃいます。
-思った以上に早くて驚きました!
新埜康平:ただ、日本画って素材の準備に結構時間がかかるんです。
礬水っていう染の作業とか、料理に置き換えると下処理の工程ですね。
1日煮て寝かしておく工程が多くて、実際筆を置き始める所までめちゃくちゃ時間がかかってしまうんです。
絵具も一つずつ手で練って作らないといけなかったり、そういう手間はすごくかかってますね。
-チャリティーアート展の作品の制作はトータルで何日くらいかかったのですか?
新埜康平:合間に他の制作や展示も行っていたので、チャリティーアート展の作品だけで考えると1か月くらいですね。
-他の作家さんなどの作品も見られたりしますか?
新埜康平:めちゃくちゃ見ますね。僕自身アートが好きなので。
最近気になる作家さんは、大御所でいうと現代美術館で展示しているデイヴィッド・ホックニーさん。めちゃくちゃかっこいいですね。
同年代で活動してる作家さんも好きでよく見ていて、すごく刺激を受けたりもします。
-ファンとして客観的に見ている感じですか?
新埜康平:そうですね。
そういう目線で現代の作家さんの作品をよく見ます。
日本画の好きな作家さんがいるんですけど、俵屋宗達とか尾形光琳とかそういう琳派の作家さんの作品は、めちゃくちゃ影響を受けています。
日本画は継承の文化なので、そういう方達の作品は技法を引用させてもらうことはあります。
先人の人たちからは技術を継承して作っていると思っているので、自分が100%オリジナルで作ってるという感覚ではないですね。
-これからの活動で挑戦したいことなどはありますか?
新埜康平:自分がどういう挑戦をしたいっていうよりも、自分の作品がどこまで挑戦出来るのか?どういうステージまで行ってくれるのか?という感覚で制作しています。
結局はその作品がどこに連れてってくれるかだと思うし、作品次第だと考えています。
その作品が海外に連れて行ってくれるのであれば、挑戦したいし、
今回バーニーズさんっていうのであれば、その作品がバーニーズさんに連れて行ってくれたんだな。っていう感じですね!
いい作品を作れば素敵なところに連れて行ってくれるだろうし、いい挑戦が出来るんじゃないかなって思ってます。
-ありがとうございました!
PROFILE
新埜 康平 (あらの こうへい)
東京生まれ。東京を拠点に活動し、展覧会などを中心に参加している。
ストリートカルチャーや映画の影響を受け、仮名の人物や情景、日々の生活に根差した等身大のイメージをモチーフに制作。余白やタギング(文字)の画面構成等、様々な絵画的要素を取り入れ、日本画×ストリートをテーマに制作。Independent Tokyo 2023 小山登美夫 賞。
第1回 Idemitsu Art Award(旧シェル美術賞)。入選\第39回 上野の森美術館大賞展 入選/
第56回 神奈川県美術展 入選。
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