キーンコーンカーンコーン ....
いつからか日常の音から消えた音。
このベルの音で「急げ!間に合わない〜」と焦ったり、時には「終わった〜!!」とホっとしたり、懐かしい感覚が蘇る。
久留米信愛中学校・高等学校のカリヨンの鐘は1日に3回鳴る。
そのタイミングを聞くのを忘れてしまったが、すごく素敵だと思った。
ほとんどの学生が桜が咲く頃には、新しい場所、新しい出会いを体験していく。
最初に抱くたくさんの不安はやがて新しい友達の名前のように、日常に溶け込んでいくだろう。
インタビューで出会った生徒たちに学校の自慢は?と尋ねると、口をそろえて「図書館!!」と教えてくれた。
学生時代に図書館で「はだしのゲン」しか読んだ事がない僕にとって、授業以外で立ち寄ることのない場所だった。
11万冊以上の蔵書があり、幅広い分野の本をそろえ質も量も充実している自慢の図書館を斎藤さんと中村くんに案内してもらった。
まず、図書館に入ると天井までビッシリと並んだ本に圧倒される。
数字で聞くと沢山本があるのだなと思うだけだが、実際に2階4層までびっしり詰まった本棚を見るとその凄さを肌で感じる事ができる。これから入学する生徒たちは是非とも楽しみにしてほしい場所だ。
せっかくなので2人にオススメの本を聞いてみた。
斎藤「色々と読みますが、ハマっているシリーズがあり、特に好きなのが緑の本という本です。」
斎藤「部活の合宿で一人ずつ怪談話をしていくうちに、主人公のまわりでもふしぎな出来事が続いていくというストーリーです。少し怖くて不思議なお話です。」
斎藤「そうですね(笑)不思議な物語で少し怖くて面白いので、すごくハマってます!!」
〇〇の本シリーズは他にも赤、灰色、紫とシリーズ化されており、斎藤さんの心を掴んでいるようだ。
学生時代、女子は怪談話が上手だったし放課後にたわいも無い話の中にでる怪談話をシャンプーする時に思い出しては背中に視線を感じる怖い思いをしたものだ。
中村「この図書館で読んだ事があるのは平家物語とかですかね。」
中村「まだ、あまり来た事がないので、、、あとは映画になった原作とかを読む事が多いです。マスカレイド・ホテルとかは読みました。」
中村「家にハリー・ポッターとかたくさん本があるので、親の影響でたまに読む事があります。」
中村君は部活動に入っているらしく、なかなか立ち寄る機会がないようだ。読書は嫌いじゃなく、この図書館についても知っていてどんな本を読むのか気になったのだが、挙げてくれた書名が渋くオシャレで、ビックリしてしまった(汗)
中村「フォートナイトなどのゲームが流行ってます」
斎藤「スノーです。(人気のスマートフォンのカメラアプリ)」
学生の頃、限られた時間で遊ぶゲームが楽しかった思い出がある。
おそらくフォートナイトも、スノーも遊びすぎると怒られるから限られた時間で楽しんでいるのだろうか、その尊さに少し懐かしさを感じてしまった(笑)
あと、趣味まで僕より落ち着いていたらどうしようかと思っていたが、中村君がちゃんと学生らしい遊びにハマっていて安心した。
斎藤「クリスマス・ミサですかね。まだ1年生なのでどんな事をやるのかわからないので、不安ですけど楽しみです」
クリスマス・ミサというのは、イエス・キリストの誕生をお祝いするカトリックの典礼のことである。
久留米信愛中学校・高等学校でもイエス・キリストの誕生についての歌や神父様のお話やお祈りなど、キリスト教の正式なお祝い方法で行われる毎年恒例のイベントとの事だ。
久留米信愛中学校・高等学校 では、このミサの最後に全校生徒でハレルヤコーラスが行われ、その後に生徒会の主催 でダンスや歌など自由な演目で盛り上がる『クリスマ ス祝賀会』が行われる。
形式張ったイベントだけでは、生徒が退屈してしまうのではないか?という先生方の計らいなのかもしれない。
学生主導のクリスマス祝賀会というと、ふと、「ウォールフラワー※1」というアメリカの文学を思い出してしまった。
もし、久留米信愛中学校・高等学校の図書館にあれば読んでもらいたい。
※1アメリカ図書館協会が選ぶ「2009年度最も推奨する本」にも選ばれた本である。
ウォールフラワーとはまさにそのまま「壁の花」なのだが、内気な主人公が、パーティー会場でも一人で壁際に佇む様子を表した比喩だ。
日本でも映画が公開され、学生を卒業していた僕の心を動かした映画となった。
映画の方がかなり見やすい内容になっていたと思う。
why do nice people choose the wrong people to date?
– なぜ優しい人は間違った人を選ぶのか? –
と主人公が意中の相手に問いかけるシーンが特に印象的だ。
そして、その返しがとても秀逸だった事を覚えている。
この問いは深い。
誰しも、あたたかい環境に理想をもち、愛し愛されている事を願っていると思うのだが、一方でその環境に汗をかいてしまう時がある。時として自分の事に興味のない部屋をノックし、冷房の効いた環境に身を置きたくなる事がある。
主人公の気持ちはクリスマス祝賀会で誰かの手を引くことを躊躇したり、自分じゃない誰かと楽しげにしている様子を見たときの感情に近いかもしれない。
続きは映画や本をみてほしい。
ダンスやパーティー文化に疎い日本で学生時代にこんな体験ができるのであれば、僕も学生に戻りたいなと思ってしまう。
これから行われるクリスマス・ミサでは2人がどんな事を感じるのか楽しみだ。
鐘は1日3回に分けて鳴る。
長年、地元で愛された日常になっているようだ。
カリヨンの音色は久留米の街に始まりを告げ、休息と安心、そして一日の終わりの合図となっているのかもしれない。
取材中に鐘の音色を聞く事はできなかったが、片付けをしながら、先生と生徒のお迎えに来ていた保護者の会話、帰る生徒を見守る守衛さんの挨拶が飛び交い、地域とのふれあいを大事にしている学校の姿が想像でき、そして地域も学校を愛しているように感じた。
生徒たちにはカリヨンの音色がどのように聞こえているのだろうか?
それが、愛してやまない友達とのあっという間の時間への合図だとしたら、君たちの時間は無限だ。
この音色もいずれは日常に溶け込み、思い出の中に消える。